#05 専門家インタビュー 北澤光子先生(教育カウンセラー)

北澤光子先生プロフィール 
民間企業を経て、自身の子育て中に不登校の子どもたちや発達に課題のある子どもたちへのボランティアや幼小中高における支援の経験をする。国立特別支援教育総合研究所(神奈川県横須賀市野比)の先生方や横浜市立大学の先生そして日本自閉協会の人々との出会いから、神奈川県の先駆的事業として助成を受け、不登校や発達に課題がある子どもたちのため、「共に歩む会」を立ち上げ、小中学校の教室へ国総研の研修生や大学生のボランティアの派遣を行う。そのボランティアの方や先生達そして保護者のための勉強会を行ってきた。現在も教育カウンセラーとして町内の親子の育ちに寄り添う。


悩みの原因は変わらない
原因を追求するのではなく「これから」を考える

―様々な相談が寄せられると思いますが、どのような内容の相談でしょうか。
相談内容はお子さんからの困りごとや子育て、夫婦や家族の問題など様々です。
お母さんやお父さんが子育てをひとりで抱えてしまって苦しくなっていることも多いです。子育ては一人でできることではないですから、一人で抱えてしまうと苦しいですよね。
―相談される困り事はどのように解決していく事が多いのでしょうか。
最初はみなさん何かで困っているというお話でいらっしゃいます。
困っていることは「悪いこと」、「自分を困らせる人」の話をしたくなってしまいます。でも、その事ばかりに目がいってしまうと前に進めなくなってしまいます。過去のことは変わらないのにその事ばかりになり、変わらない事を考えて疲れてしまいます。だから 「これからどうしたいのかな?」「何を助けてもらおうか?」「自分でできることは何?」と「これから」について話をする事が多いです。
例えば、子どもが学校に行かないからお仕事を辞めた方が良いかと聞かれることもありますが「それは仕事をしているからの問題なのかをもう一度考えましょうか?」と、これからの話を一緒にしたりします。子どもの自立のため、自分が自分でしっかりと立つことも大切です。
子どもからの相談も同じです。誰かの問題であることについてのお話はもちろん聞きます。でも話を聞いてもらうだけだと、その時はホッとするかもしれないけれど、状況は変わらず、ずっと続いてしまいますよね。お話を聞いてもらい安心した段階でこれからどうするのかを考える事が大事なのです。実際に「これから」を考える事で解決に向かう事が多くあります。
「変えられること」と、「変えられないこと」をしっかりと見極めることが大事です。私が解決するわけではありませんので、相談に来られた方がご自身で、そして家族で解決できるように一緒に考えます。他に助けてもらえるところがないかも一緒に考えます。「自己理解」から「自己実現」へ向かっていただくこともあります。

 

学習や発達段階の相談から支援のかたちへ

―学習、発達の課題を抱えるお子さんについての相談もあるかと思います。課題を抱えるお子さんへの支援などについて教えていただけますか?
勉強ができないので気になっている、というお母さんからの相談もあります。
その子らしく元気に学ぶことに取り組めるのが一番です。人と比べる必要はありません。ゆっくり目の発達の子もいれば、早すぎる発達の子もいます。でもその子が困っている場合は手を貸しましょう。
20年前は支援が必要な場合、お母さんが教室にいてくださいと言われる時代でした。
私がボランティアを派遣するときに大事だと教えていただいた、みんなの中で出来る支援のかたちがあります。学校でよくある個人に焦点を当てる支援が必要な時もありますが、一人の子どもに対して、その子だけの支援を考えるのではなく、教室内をみて支援を考える視点、いわゆる学校の中でのユニバーサルデザインです。どんな子にとっても安心できる場の提供です。
実は子ども達同士の方がお互いを知っていて、接し方がとても上手です。この子はこうすると怒る、こうすると安心するなど、その子その子をよく見ています。そして、子どもの心は柔軟です。大人はそういった状況を把握して、大人ができる事、子ども達が助け合いながらできる事を考える事が大切です。大人だけでなく子ども達からも助けてもらえた、という経験があると誰かが助けてくれるという強い安心感がうまれます。
社会の大きな変化もあり、今は学校での学びの形も変わってきています。先生が教えるだけではなく、みんなで考えて答えを出すという機会が増えています。そうした変化や子ども達の成長に合わせて、支援の形も変わっていくことでしょう。もちろん個別の支援が必要な場合もあります。大人がどれだけ子どもの困り感に気づき環境調整ができるかが大切です。発達の課題を抱える子どもには環境への配慮が必要です。
大人の心の寛容さ、柔軟さが一番の環境になることも多くあります。

自分らしさを大切に助けてもらう力を身につけよう
みんな「あるがまま」に生きても大丈夫

―自分の事は自分でできるようにならなくてはいけない、迷惑をかけてはいけないという固定概念が日本では強いかと思いますが、できなくて助けてもらってもいいのでしょうか?
子どもはみんな様々なことを出来るようになりたいと思っています。出来ない事にこだわる事はないと思います。全て自分でやるのではなく、解らない事はこの子に教えてもらう、自分にはこれは出来るけどこれは出来ないからこの子にやってもらう、という「助けてもらえる力」を培う事が大切になっていくと思います。その力が不十分で相手に伝わらないと、この子はあれもできない、これもできないと思われてしまいます。
そうではなく、みんないいものを持っているのに、持っているいいものが「できない」という言葉に潰されないようにして欲しいです。
助けてもらう事、迷惑をかけてしまう事に消極的な保護者の方もいますが、実は人は誰かに助けられて生きています。人生の中では人に迷惑をかけなくては生きていけないときもあります。どこかのタイミングで逆にこちらが助けられる時もあります。「あるがまま」を「わがまま」というのであれば、「わがまま」と思われても、必要な時は助けてもらってもいいのではないでしょうか。
また、大事なのは感謝の気持ちを伝える力です。
そして、どの年代においても1番の土台になるのは「人を信じられる力」です。人を信じられる事ができれば自信が自然と生まれます。困難な状況でも誰かの手を借りてやっていける、と思えます。「人を信じられる力」は自分の安全基地を作ることにも繋がるのです。

お母さんが子育てを一人で抱えない、「大変」を「面白い」に変える

―「信じられる力」「助けてもらえる力」は子どもだけでなく大人にとっても大切だと感じました。
ひとりで子育てを抱えて辛いお母さんの中には、子どもをお父さんにさえ預けることに躊躇することがあります。でもお父さんのやった事はお父さんの責任でもあり、お父さんのやり方、自分ではない人のやり方を認めることでもあります。子どもを人に託せないというのは、それはお父さんを信じられない、という事になってしまいます。子育ての楽しさは本当に一瞬です。大変じゃないよ、楽しいよ、面白いからお父さんもやってみて、とお父さんを信じて子どもを託してほしいです。子育てをひとりで抱えない事、そのことから他人を信じ託すことが出来るのではないでしょうか。子どもは日々成長します。
たくさんの人に育ててもらい、可愛がってもらうことにより人を信じる力は増します。
―子育てが大変じゃない、面白いという考えもいいですね。
「大変」ではなく、良い意味で「面白がる」事は大事です。
子どもも「大変な子」でなくて「面白い子」なんです。この子は「大変な子」です、という話をよく聞きますが、「この子は面白い子だね」と伝えると「えっ、面白いですか?」とお母さんが子どもに対して持っている見方が変わります。子どもをマイナスに捉えていると、自分もマイナスの感情になってしまい、子育てをしていく上で大変になります。なるべくプラス感情でプラスに考えて子どもに接するという事が大切です。
面白い子だね!と言われたら子どもは面白い事を堂々として生きていけますよ。大変な子・ダメな子と言われたら、子どもは自信を持てないですよね。

一緒に何かをやりたくなる人、自分をわかってくれる人、凄いと思える大人との出会いで育まれる子どもの生きていく力

―お子さんの不登校に関して悩まれているお母さんもいらっしゃるかと思います。時間の過ごし方や学校以外の場所なども一緒に検討されるのでしょうか。
不登校の子の付き合い方はその子その子で様々です。弱ってしまっている子にはまず安全基地はどこなのかを探してあげることから始めます。病的なものがないのであれば、過干渉は禁物です。過保護なぐらいが丁度良い、ゆっくり考えさせてあげることが大切です。先に大人が考えて動くことはやめた方が良いことが多いです。時間がたつと退屈してきたな、どこか行きたい、仲間が欲しいな、と思う時も出てきます。待つことが大事です。人間はみんな所属感が必要で、所属感がないと寂しくなってくる事があります。そういった時、所属できる場所が学校なのか、別の場所なのか焦らせずに模索していきます。
「生きていく力」を身につけられる事を目的として考えます。もちろん学校に戻る場合もありますし、その先の専門的な方向に向かう場合もあります。知能が飛び抜けて高いゆえに困っている子もいます。そういった場合は子どもとプロを繋ぐという機会を今は探す事ができます。例えば、鳥の好きな子が、鳥類研究所とつながったり、レゴの好きな子が大学のレゴ研究会で繋がりを持ったりすることもあるのです。
居場所探しという視点でなく、一緒に何かをやりたくなる人、自分をわかってくれる人、その子がすごいと思う人に子どもが会えたらいいなと思っています。大人が思うすごい人が子どもの思うすごい人とは限りません。子どもがすごいと思う人からこれは絶対にやっておいた方がいいよ、と言われると子どもは頑張ってやります。学校なんかどうでもいいやって思っていた子もやはり行こうとか、学びたいと思ったりする事もあります。

感情を出すことはとても大切
葉山の自然がもたらす素晴らしいこと

―大人も視点や子どもに対しての感情の見方を変える事が大切ですね。
お家で子どもがギャーギャーと泣いて騒いでおさまらない、というお母さんからの相談も多くあります。思いっきり泣いたり、怒ったり、感情を出しているという事は、お家がそれだけ安心できる、ということではないでしょうか。子どもの感情は自分で説明できるものではありません。説明できないから泣いたり騒いだりしてしまうのです。
感情を出す事、感情がある事を知ることは、子ども達のその後の成長にもプラスの効果があります。安心できる場で感情を出せるようになると辛い気持ちがたまらなくなるので、感情をワーと出す事も徐々に少なくなります。気持ちが落ち着くまで1時間かかっていたのが、10分、5分と短くなっていきます。さらに感情を安心して出していくと子どもは元気になるのです。感情表現があまりにも激しい場合は専門家に助けてもらってくださいね。
ただ、泣いている我が子を見るとお母さんは辛くなるじゃないですか。そんな時、お母さんは別の部屋やトイレで時間と距離を取ってください。お母さんの感情の整理も必要です。感情を言葉にする力が大人にはあります。自分の気持ちを言葉にして自分の感情が整理できないときは誰かに聞いてもらいましょう。一緒にいられるようだったら子どもを抱きしめて、泣いても騒いでもいいよと声をかけてあげてください。子どもの感情が読めるようであれば、それを言葉にしてあげてください。だんだんと言葉で説明できるようになります。感情を言葉に出来る力が付くと、大騒ぎせずに説明してくれるようになります。感情を言葉にすることを教えてもらっていない子が多くいます。

― 最後に葉山で子育てをする良さや葉山の自然が心に与えてくれる影響などがありましたら教えてください。
自然が人にもたらす影響はとても大きいです。富士山に夕日が沈むのを眺めて涙が出てくる、という感覚があればそれはすごく素敵な経験だと思います。親が空を眺めて涙しているとか、とても嬉しそうとか、「すごく気持ちがいいね」と言葉にするとか、そういった事ができる環境があるというのは、子どもにとっても豊かな世界があるという事です。
ここでしか感じられない海からの風や空気感などは、やはり癒されます。すごく荒れてしまった子が、今から海へ行ってくると出かけて、サーフィンや素潜りをして戻ってくると、すごくいい顔になっている、とあるお母さんが言っていました。何かモヤモヤした気持ちを癒す力が自然の中にあるのですね。
親御さんも、たまには海に入る、山に登るのもいいと思います。何かが見えるのではなくて、何かが広がっていくと感じられます。イライラする時、悲しくなった時、山があり海があること、泣いたり叫んだり感情の放出ができる場所がある、ということです。葉山「ならでは」のとても素晴らしい環境だと思います。まずは大人がこの自然を満喫し、子どものよく分からない感情は自然に浸ることでも癒されることを見せてあげてください。
大人が安心している真の笑顔や自然に出てくる愛おしい表情を子どもも大人も欲しがっているのだと思います。マスク生活でその表情を読み取れないのが残念です。その代わりに自然に出てくる素敵な言葉をたくさんためてシャワーのように浴びさせてあげられたら良いなと思います。